降雨観測例
XバンドMPレーダの降雨観測例として,2008年8月5日の正午頃に東京都で発生した豪雨の事例を,在来型Cバンドレーダの観測結果と比較しながら紹介します.
降雨強度の時間変化
2008年8月5日の正午頃に東京都豊島区雑司が谷で下水道の改修工事を行っていた作業員6名が急激な出水により流され,5名が死亡する事故が発生しました.この時の雑司が谷周辺の降雨強度の時間変化を以下に示します(図中の丸印が雑司ヶ谷の位置を示します).
このアニメーションは2008年8月5日11時(日本標準時)から13時の間に,在来型Cバンドレーダ(気象庁レーダ;水平格子解像度は1 km,当時の更新間隔は10分毎)と防災科研XバンドMPレーダ(水平格子解像度は500 m,更新間隔は5分毎)で推定された降水強度(単位はmm/hour)の時間変化を示しています.このアニメーションから,東京都で雨雲が発生・発達し,雑司が谷周辺に強い雨を降らせたことがわかります.この急発達の様子は10分間のデータ更新間隔ではとらえることが難しく,5分よりも短い更新間隔が必要とされることが示唆されます.また,この時のXバンドMPレーダの降雨強度は在来型Cバンドレーダの降雨強度よりも大きな値となっていますが,雑司が谷の近くに設置された雨量計の観測結果と比較すると,XバンドMPレーダの方が正しいことがわかりました.
1時間積算雨量
下の図は11時30分から12時30分の間の1時間積算雨量の分布を示しています.
在来型Cバンドレーダの図は気象庁解析雨量と呼ばれるもので,過去1時間分のレーダ推定積算雨量を地上の雨量計の観測結果を用いて補正したものです.一方,XバンドMPレーダの図は,雨量計による補正を行わずに観測値のみを積算したものです.図中の黒丸は気象庁のアメダス雨量計の位置を示していますが,雨量計の間隔が広すぎるため,この局地的な豪雨は雨量計のネットワークでは捉えられていません.この場合,雨量計の観測値を用いたレーダ推定雨量の補正は正しく機能しません.
気象庁解析雨量は世界的にもトップクラスの精度を誇る雨量情報ですが,今回の事例のような局所的な大雨は苦手としています.XバンドMPレーダによる降雨強度推定は雨量計による補正を必要としないため,レーダのもつ高い時間・空間分解能をそのまま生かすことができ,時間変化の激しい局所的な大雨の監視に適していることが示されました.